【序章】祈りのはじまり

1944年10月10日。
沖縄の空が、9時間にわたり炎に包まれた日。

十・十空襲――。
民間の街並みさえも焼き尽くされたこの日を、沖縄の人々は忘れない。

けれど、憎しみとして語り継ぐのではなく、
「生きる」という選択の尊さとして、次の世代へつないできた。

その選択こそが、今日の沖縄を支える礎となっている。

【第一章】忘れることで、前を向く

焦土と化した土地で、人々は再び立ち上がった。
瓦礫の中で笑い、祈り、明日を信じた。

それは「忘却」ではない。
「許し」でもない。

ただ、哀しみに囚われ続けることで失われるものが、あまりに大きいと
生き抜いた人々は知っていたのだ。

憎しみは憎しみを生む。
悲しみは悲しみを連鎖させる。
だからこそ、敢えて「忘れる努力」をしてきた。

それは弱さではなく、
次の世代を守るための、強さだった。

ブーゲンビリアが焼け跡に静かに咲くように、
人の心もまた、色を取り戻していった。

悲しみの記憶の上に咲く、生命の光。

【第二章】沖縄は覚えている、人が選ぶ未来

人は忘れることで前を向ける。
けれど、沖縄は覚えている。

風の音。
木漏れ日の揺らぎ。
土に還った命の温もり。

記憶は風景に溶け込み、
語らずとも、そこに在り続ける。

私たちは「忘れる」ことを選んだが、
それは「なかったこと」にするためではない。
悲しみを抱えたまま、それでも未来を信じるためだ。

沖縄が静かに記憶を守り、
人が静かに未来を選ぶ。
その両方があって初めて、
真の平和が芽吹くのではないだろうか。

【第三章】加害と被害を超えて

あの戦争には、単純な構図などない。

日本にも確かに暴走があった。
鬼畜米英と叫び、盲目的な愛国に酔い、
人権を踏みにじった歴史がある。

沖縄は戦場となり、
多くの命が、理不尽に奪われた。

けれど私たちは今、
かつての敵国と手を取り合い、
自由と民主主義という同じ価値を信じている。

それは「水に流す」ことではない。
「美談」でもない。

尊い犠牲と、生き抜いた先輩たちの、
静かな祈りの積み重ねだ。

今日、御霊に敬礼と慰霊を捧げるとき、
私たちは問い直す。

「真の平和とは何か」

それは憎しみを忘れることでも、
過去を消すことでもなく、
悲しみを抱えたまま、それでも共に未来を作る覚悟――
その共存にこそあるのではないか。

【第四章】沖縄の未来、そして問い

沖縄は今もなお、
基地という「戦争の残影」を背負い続けている。

平和を願いながら、
平和を脅かす存在と隣り合わせで生きている。

この矛盾を、どう受け止めればいいのか。

「忘れる努力」をしてきた先輩たちの心を、
私たちはどう引き継げばいいのか。

答えは簡単には出ない。

私たちは悲しみを抱いている国だ。
けれど、悲しみの中でこそ強く、美しくなれる国でもある。

過去に縛られず、未来を信じるために。
憎しみではなく、共存を選び続けるために。

沖縄の人々が歩んできた道のりを、
私たちは誇りとして、次の世代へつないでいく。

【結び】生命の光は、今も灯る

十・十空襲から80年以上が経った今も、沖縄の空は青く、海は美しい。

ブーゲンビリアは咲き誇り、人々は笑い、祈り、生きている。

それは「忘れた」からではなく、
「忘れる努力をしながら、それでも前を向いた」からだ。

悲しみの記憶の上に咲く、生命の光。

それこそが、沖縄が世界に示す、真の平和への道しるべなのかもしれない。